ハンドルを握ること

Brian Wilsonが亡くなった。

先日のSlyに続いて、またひとり、偉大な音楽家が永遠となった。《Surfin’ U.S.A》や《Good Vibrations》などのビーチ・ボーイズの音楽は、聴いていて楽しい。それでもやはり、《Pet Sounds》には特別な何かがあると思う。楽曲は、当時のBrianと、選び抜かれたスタジオミュージシャンたちとで作り上げられた。音楽としての完成度がとても高い。何度聴いても、素晴らしい作品だと感じる。

《Wouldn’t It Be Nice》の冒頭、あのハープのような音と、歌のメロディが生み出す不思議なマッチ。そこから流れ込んでくるコーラスには、ほかの音楽では感じない、奇妙な心地になる。後にVan Dyke Parksと《Orange Crate Art》を共作するが、そのときのストリングアレンジにも通ずるものがある。

《Sloop John B》の軽やかさや楽しさには、フィル・スペクター的でもあり、モータウン的でもある。そこにはキャロル・ケイをはじめとするミュージシャンたちの存在があり、Brianが料理人となって、さまざまなジャンルを横断し、組み合わせて作っていった様子が想像される。当時ここにしかない音楽が、たしかにそこにあったのだと思う。

Brianの音楽には、豊かな世界があった。いい音楽を作ろうというポジティブなアイデアの広げ方、それを音として形にしていく表現が、数々に詰まっているように思う。

同時に、彼が重度の麻薬中毒だったことも、よく知られている。バンドを追い出された過去もある。世界中の多くのアーティストが陥ってしまうように、Brianもまた、その罠に呑まれていった。それなしには生まれなかった曲だと考えるのは皮肉だが、歴史に「もしも」はないのだとしても、違うかたちでインスピレーションを形にできなかったのかな、と思う自分がいる。

彼はセルフプロデュースという点で、Sly Stone、細野晴臣にもつながる音楽の作り方をしていたと思う。フィル・スペクターのような「音の壁」を、同時録音ではなく、スタジオで多重録音を重ねることで実現していく。音楽のジャンルを定義せず、さまざまな楽器を用い、どこの国の音ともつかないものを生み出していく。それが、時とともにスタンダードになっていく。

誰かのインスピレーションを多くの人にとって馴染みやすい形へと、AIが生成するという時代にあって、人がリアルな現場で、いわば「つい作ってしまった」もの――そのノイジーな面白さは、過去にも現在にも未来にも魅力的だと思う。

あらゆる薬効成分、あらゆる技術とも、その付き合い方。自分が身近に認知できていない世界は、予想外に豊かで、時に一足飛びにそこへ行ってしまいたくなったり、また、よく知る世界の中だけをぐるぐる回っていたくなったりもする。どちらも本当で。

だからこそ、何かを作るということは、操舵手である自分自身が、しっかりとハンドルを握っていないといけないのだと思う。


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