映画を見るために新宿に来た。
バスタのあたりで通りすがりの男性に突然、
「ちょっと待って写真を撮らせて」と話しかけられた。
なにか言葉を返そうと思うが「Can I take a picture?」と矢継ぎ早にくる。
怖くて戸惑い逃げようとすると前を塞がれて、ぼくが首から下げていたカメラを撮影しようとしはじめた。この人もカメラを持っていた。
「M11。ライカ。いいカメラ持って。この経済格差が叫ばれる時代に。ナニジンですか?」
怖くてぼくは固まってしまって何も言い返せない。
「私が尊敬するカメラマン、森山大道。森山大道 知ってる?彼はライカなんか持たない。ここ10年コンパクトカメラ1台。コンパクトカメラ1台。You know? 世界で最も有名な日本人のカメラマン。森山大道。動かないで、撮らせて。」
彼は自分が持っているニコンのデジタル一眼で僕のカメラを撮るだけ撮って終始自分のペースだった。
ぼくは苦笑いぐらいはしていたんだろうか。彼は愉快そうにずっと喋りつづける。隙を見て通り過ぎた。
数十秒の出来事だったが、息が詰まる悪夢的出来事だった。
映画「陽子の旅」に出てくるような幻だったのだろうか。
歌舞伎町タワーにある映画館は音響もよく、映像も綺麗だった。でもこのタワーの麓にはたくさんの若い人が溢れかえって、階段に座り込んで。これがトー横か。ぼくが20歳の時、勢いで東京に出てきて歌舞伎町の漫画喫茶やマクドナルドで時間を潰していた時に見た景色とは変わっている。荒んでいて辛く過ごした記憶があるが、今は悪い意味でもっとなにか深刻なことが進行中な気がした。
かつて新宿は寺山修司さんの天井桟敷を筆頭とする演劇サブカルチャーの聖地だった。大島渚やゴダールの映画が上映される映画館があり、学生運動でギターを持った人たちは西口に集ったという。
その名残。歌舞伎町タワーに映画館がある理由。すごくいい映画館で坂本さんの音楽がそこかしこで流れる。すごくいい空間なのに、どうしてチグハグな気がするんだろう。ぼくがさっき経験したことと奇妙な一致を見せる。このチグハグは、どこかで揺り戻しを起こすんだろうか。それは自然災害なるものが人間が作ったものを自然に帰する時をいつかと待つ様に。
新宿
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