私はSlyの音楽が大好きだ。
シンプルなサウンド構成とタイトなドラム、楽曲に漂う独特の空気感。Slyのグルーヴと呼ぶべきものがある。
リズムボックスを使ったSlyのファンクミュージックは、ディスコやテクノよりも早く、新しい音楽の先駆けのように思う。Sly & The Family Stoneというバンドでスタートしたが、さまざまな理由で1人でスタジオに入り、録音を始めるようになった点でも、現在的な“宅録”のはじまりと言える。
生演奏は確かに素晴らしい。でも、TR-808が生まれる遥か昔の、プリセットリズムしか選べないリズムボックスを使って、そこに人の演奏が絡んでグルーヴが生まれていくスタイルは、《Family Affair》《In Time》などでも顕著に思う(それぞれ1971年、73年の録音だなんて!)。
私はYellow Magic Orchestraも大好きなので、彼らが影響を受けた音楽としてSlyが挙げられ、「Thank You for Talkin’ to Me Africa」が何度か演奏されたことも思い出す。ピーター・バラカンさんが、当初その演奏をSlyの録音かと聴き間違えたとラジオで言及されたこともあった。確かによく似ているが、聞き込むとSlyとYMOはまったく異なるグルーヴを持つ音楽だとよくわかった。
長らく、金銭的に苦しかったことが知られるSly。権利関係においても、あまり良い契約の状況下にはなかったと聞く。音楽業界に限らず、お金が動く場所では、理不尽なことが起きるのだと思う。
晩年には、自伝の出版や訴訟での勝訴を通じて、再評価の機運も見られたが、それはほんのつい最近のこと。
人生に遅すぎることはないと信じたい。けれど、彼が暮らしに困らず、音楽に集中できていたなら──
どれだけ多くの音楽を、彼はこの世界に残してくれただろうか。
様々なルーツを持つ人々が集まってつくるアメリカという国で、アフリカ系アメリカ人は多くの素晴らしいアーティストを輩出してきたが、Slyもまた特別な、唯一無比の存在だったと思う。彼の音楽は、新しいグルーヴのかたちを提示し、一つのジャンルを切り開いたとも言える。
SLY、永遠なれ。